宮島の鹿と共存するために、「給餌か放置か」だけではない第三の道

前回の記事では、宮島が花崗岩由来の植物が育ちにくい環境であることを理解した上で、それでも条件を整えれば植物が育っている事例が存在していることについて書きました。

宮島には過去に人の手で整備された芝地や農地が存在しており、「環境を整える」という発想そのものは、決して突飛なものではないことも見えてきました。

では、その前提を踏まえた上で、宮島の鹿たちと、私たちはどのように向き合っていけばよいのでしょうか。

目次
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宮島の鹿たちは、十分な餌資源の中で暮らせているのか

大元公園のまったりする鹿さん

宮島の鹿たちは、現在およそ600頭が生息しているとされています。

一方で、宮島は花崗岩由来の土壌であり、水はけが良く、栄養分が流れやすいなど、植物が育ちにくい環境です。

さらに、鹿たちは島の中にある少し生えた植物をすぐに食べてしまうため、食べられる植物が安定して増えにくい状況があります。

その結果として、現在の宮島では、鹿たちに対する餌資源が十分とは言い難い状態になっているように感じます。

宮島の植生について

「給餌か放置か」の二択になっていないか

藤の棚での給餌風景

こうした中で、宮島の鹿をめぐる議論は、

  • 給餌をするべきか
  • 自然に任せるべきか

という、二択で語られることが多いように感じます。

しかし本来は、その間にある

環境そのものをどう整えていくのか

という視点も、必要なのではないでしょうか。

長年の給餌活動と個体数の変化

ごはんを探す宮島の鹿さん

宮島では、市民による給餌活動が17年間続けられています。

一方で、行政資料などを見る限り、その間に宮島の鹿の頭数が大きく増加している様子は確認されていません。

長年給餌活動が続けられている一方で、行政資料上では鹿の頭数が大きく増加している様子は確認されていない

しかこ

給餌活動を長年継続していても
鹿さんは増えていないのね

もちろん、個体数の変化にはさまざまな要因が関係するため、単純に結論づけることはできません。

三叉路での給餌風景

しかし少なくとも、

一定の餌資源を確保したからといって、直ちに個体数が大きく増え続ける

という単純な話ではない可能性も見えてきます。

行政資料を読み解きました

鹿は急激に増える動物ではない

鹿は、犬や猫のように一度に多くの子を産む動物ではありません。

基本的には、年に1頭程度の出産であるため、急激に個体数が増える性質の動物とはいえないのです。

鹿さん

私たちは、一度に多くの子を産む動物ではありません

また、自然界では、餌資源や環境条件、病気、競争など、さまざまな要因によって個体数は変化していきます。

だからこそ、「増えるかどうか」だけで考えるのではなく、

現在の宮島の自然環境をどのように改善していくのか

という視点も、必要なのではないでしょうか。

すでに存在している「使われていない芝地」

鹿さんと目が合った

現在の宮島市街地には、芝地でありながら、鹿が入れないよう囲われている場所がいくつかあります。

これは景観維持や管理上の理由によるものだと思われますが、鹿たちから見れば、「食べられる草があるのに入れない場所」が存在していることになります。

鹿さん

草が見えているのに
食べられないのつらい・・・

もちろん、これだけで全ての鹿が十分に生きていけるとは言えません。

しかし、現在ある資源をどのように活用するのかという視点でも、考えていく余地があるのではないでしょうか。

芝地ではないにせよ、現在十分に活用されていない土地もあるように感じます。

そうのような土地に芝地を作ってはどうか、といった専門家の意見も実際にあるのです。

専門家の意見はこちら

第三の道 〜「給餌」から「環境整備」へ少しづつ移行していく

現在行われている給餌活動は、餌資源が不足している環境の中で、鹿たちの命を繋ぐための応急的な役割を担っている側面があります。

一方で、本来望ましいのは、

給餌だけに頼り続けることではなく、鹿たちが食べられる植物や芝地など、環境そのものを少しずつ整えていくこと

ではないでしょうか。

春の宮島は新緑がとてもきれいです

例えば、現在行われている給餌量をひとつの基準にしながら、その一部を段階的に芝地や草地へ置き換えていく。

そうすることで、将来的には給餌量そのものを少しずつ減らしていける可能性もあるかもしれません。

もちろん、これはそんなに簡単なことではなく、

  • 植物の回復状況
  • 鹿の栄養状態
  • 個体数の推移

などを見ながら、慎重に進めていく必要があります。

毎週お届けしている給餌袋は50袋

しかし、

給餌を続けるか、完全にやめるか

という単純な二択ではなく、

今ある給餌を、少しずつ環境整備へ移行していく

という考え方も、ひとつの現実的な選択肢として考えていく余地があるのではないかと感じています。

こうした考え方こそが、「給餌か放置か」という二択ではない、“第三の道”なのかもしれません。

人間が作ってきた環境だからこそ

芝がものすごく短いです

人間ほど環境を大きく変え、その結果として特定の状況を生み出してきた存在は、他にあまり例がありません。

宮島においても、

  • 鹿を観光資源として活用してきた
  • 人の手で芝地や農地を作ってきた
  • 環境そのものを変えてきた

こうした長い歴史があります。

つまり、現在の宮島の環境は、完全な自然だけで成り立っているものではなく、人間社会との関わりの中で形作られてきた側面を持っています。

宮島の環境の歴史です

宮島に今必要なのは「建設的に考えること」

親子かな

人間が作ってきた環境によって動物が苦しんでいるのであれば、そこから目を背けるのではなく、どうすれば改善できるのかを建設的に考えていく必要があるのではないでしょうか。

もちろん、簡単な話ではありません。

宮島には景観、文化、観光、自然保護など、さまざまな要素があります。

ですが、だからこそ、

  • 何が現実的なのか
  • どのような方法なら可能なのか
  • 小さく試すことはできないのか

そうしたことを、実際に存在している事例や環境を踏まえながら考えていくことが、大切なのではないかと感じています。

そうした建設的な姿勢こそが、世界遺産であり、「神の島」とも呼ばれる宮島にふさわしいのではないでしょうか。

おわりに

目がかわいいですね

今回の記事では、

給餌をするか、しないか

という二択だけではなく、

環境そのものをどう整えていくのか、という視点について書いてみました。

もちろん、これが正解だと断定することはできません。

しかし、宮島にはすでに、人の手で作られてきた農地や芝地の歴史があります。

また、17年間続けられてきた給餌活動の中でも、鹿の個体数が爆発的に増加しているわけではない、という現実もあります。

そうした事例を踏まえながら、

「不可能」と決めつける前に、どのような可能性があるのかを、今一度それぞれが考えてみることも必要なのではないでしょうか。




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