宮島の鹿について発信していると、「鹿は泳げるのだから、島に餌がなければ本土へ泳いで渡ればいい」という意見をいただくことがあります。
確かに、鹿は泳ぐことができる動物です。
実際に海を泳ぐ鹿が確認されることもあり、宮島観光協会も鹿も泳ぐことができると紹介しています。
では、宮島で餌が不足した場合、鹿は海を泳いで本土へ移動すればよいのでしょうか。
この記事では、「鹿が泳げること」と「宮島の鹿が本土へ移動すること」を分けて考えながら、現在確認できる資料と、私たちが現地で見てきたことを整理します。
鹿は泳ぎが“得意”なのは本当?

鹿はどちらかと言えば、泳ぎを得意としている動物です。
川や湖だけでなく、海を泳ぐ鹿が確認されることもあります。そのため、「鹿は泳げない」という説明は正しくありません。
宮島観光協会も、宮島の鹿について「シカも泳ぐことができます」と説明しています。
特にニホンジカやアメリカジカなどは、川や湖を渡る姿が観察されています。
日本海を泳ぐシカ(2023/7/30)
鹿は四肢が発達していて、筋肉も強いため、安定した浮力と推進力を持っています。
ただし、泳ぐ能力があることと、餌を求めて日常的に海を渡り、別の地域へ移動することは分けて考える必要があります。
宮島の鹿は本土から孤立した個体群と考えられている

宮島の鹿について考えるうえで参考になるのが、廿日市市の「宮島地域シカ保護管理計画」です。
この計画では、宮島の鹿について、約6000年前に宮島が島になった際に本土側の個体群から分断されたと考えられており、その後、本土側の鹿の分布域が縮小したことによって、現在のような孤立した状態になったと推測されています。
つまり、鹿に海を泳ぐ能力があることは確かですが、宮島と本土の間を日常的に行き来する個体群として説明されているわけではありません。
また、宮島観光協会も、鹿が泳げることを紹介する一方、宮島が島になった後に鹿が泳いで渡ってきた可能性については「分かりません」としています。
ここは、分かっていることと分かっていないことを分けて考える必要があります。
私自身、宮島から本土まで泳いだ経験があります

引用:スポーツサイクル ウエキ
少し個人的な話になりますが、私自身、過去に「はつかいち宮島パワートライアスロン」に出場し、宮島から本土側まで泳いだ経験があります。
大会では宮島の大鳥居付近から対岸へ向かい、実際の遊泳距離は約2.5kmでした。
ウェットスーツを着用し、安全管理された大会での遊泳でしたが、潮の流れによって進行方向が分かりにくくなることもあり、約50分かけて泳ぎ切りました。
もちろん、人間の競技での経験をそのまま鹿に当てはめることはできません。
ただ、宮島と本土の間の海が、単なる静かな水面ではなく、潮の流れなどの影響を受ける環境であることは、私自身も実感した経験です。
「泳げる」ことと「泳いで移動する」ことは分けて考える

宮島の鹿について考えるとき、
「鹿は泳げる」
ということ自体は事実として受け止める必要があります。
一方で、
「泳げるのだから、餌がなければ本土へ渡ればよい」
という考えについては、それを裏付ける資料があるのかを別に考える必要があります。

宮島の鹿は、長い間、島という環境の中で暮らしてきました。
現在確認できる行政資料でも、本土側の鹿とは孤立した状態になった個体群と考えられています。

そのため、鹿が泳げるという能力だけを理由に、餌資源が不足すれば自然に本土へ移動すると考えることはできません。
いつくしかの考え

いつくしかでは、宮島の鹿への給餌活動を続けながら、鹿の様子や周囲の環境を継続して観察しています。
私たちは「鹿は泳げない」と主張したいわけではありません。
鹿には泳ぐ能力があります。
しかし、泳ぐ能力があることと、宮島で餌が不足したときに鹿が本土へ移動できることは、分けて考える必要があると考えています。

宮島の鹿を取り巻く問題について、一つの特徴だけから結論を出すのではなく、行政資料や研究、そして実際の現場の状況を確認しながら考えていくことが大切ではないでしょうか。
いつくしかでは、これからも宮島の鹿を現地で観察しながら、資料や研究についても確認し、鹿にとってより良い方法を考えていきたいと思います。