宮島は原生林に覆われた、自然豊かな島です。
だからこそ「宮島に鹿の食べ物はたくさんある」と勘違いされることがあります。
今回は、現場の写真をお見せしながら、実際の宮島の植生についてお伝えします。
春や夏でも鹿の食べられる植物はごくわずか

6月2日 大元公園
宮島は春や夏でも雑草が生えていません。
目で見える宮島の植物は、鹿が食べられないものばかりです。

6月2日 大元公園
こちらも鹿が食べられない植物で、植物名は「ヤブレガサ」や「マイズルテンナンショウ」ではないかとのことです。
植物の専門家でもないのに、どうやって分かるの?
と思われるかもしれません。
実はこれすごく簡単で、宮島で撮影した植物の写真を、チャットGPTなどのAIに掲載して「この植物は鹿が食べられますか?」と尋ねるだけです。
精度は100%でないにしても、大まかな植生についてはこれで分かります。

6月22日 大元公園
こちらの葉っぱはツバキの仲間ですが、ツバキは鹿が食べない植物の一つです。
鹿にとっては繊維質が多く渋いのです。
その他にも、宮島に多い植物をあげると
- シダ
- 梻(しきみ)
- 榊(さかき)
- 馬酔木(アセビ)
- エゴマ
などが多く自生しています。
これらの植物も、鹿が食べることができません。
一方、食べられる植物は、大きくなる前に全て鹿に食べられてしまいます。

6月22日 大元公園
この写真では、鹿の周りに葉っぱがたくさんあるので、一見食べ物がたくさんあるように見えます。
ですが、見えている緑の葉っぱは全て鹿が食べられません。
宮島の土壌と植物に関する知識があるかどうかで、見え方が180度変わるのです。
他の地域の植物と比べてみる
次の写真は同じ瀬戸内海の島「周防大島」で、6月13日に撮影した写真です。
あたり一面に葛(くず)の葉が伸びています。

葛の葉 / 6月13日 周防大島で撮影
春夏になると嫌というほど伸びてくるこの葛の葉ですが、宮島では全く生えません。
これが本当に不思議です。

葛の葉 / 6月13日 周防大島で撮影
他にも、竹、笹、雑草を宮島では見ることがありません。
夏の給餌風景で、葛の葉をあげることがありますが、これらは本土から宮島に持ち運んだものです。

宮島の鹿たちは慢性的な餌資源不足なため、常にお腹を空かせています。
食べられる植物があれば、小さい状態ですぐに食べてしまい、植物も大きくなれないのです。
だからこそ、給餌活動が必要です。
この給餌活動がなくなれば、鹿たちは飢えに苦しむことになるからです
宮島の鹿の給餌物資は全国の支線者さまがお送りくださっています。
また、私たち以外にも給餌ボランティアをされている方がおられます。
多くの人たちの努力と協力により、宮島の鹿の命が守られているのです。
地元の方も、本当は「鹿に餌をあげたい」と思っている方も多くおられます。
宮島の鹿は実際に餓死しそうなの?毎週鹿に会っている給餌ボランティアがお答えします
宮島には街中で見かけるごく普通の雑草がない

5月19日 広島市内で撮影
こちらは街中で生えている雑草の写真です。
このような細長いタイプのいわゆる雑草も、宮島にはありません。
宮島を訪れた際は、このような雑草を探してみてください。
全然ないのできっと驚かれると思います。
雑草がない理由は
- 宮島の土壌が特殊で雑草が生えにくい
- 生えても鹿がすぐ食べるため大きくなれない
の2つだと考えられます。
そもそも雑草が生えにくい土壌で、なおかつ、生えても伸びる前に全て食べられるため、宮島には雑草が見当たらないという状態になっているのです。
宮島の土壌と植生についての専門家の見解

宮島は大昔に、花崗岩が隆起してできた島で、島全体が花崗岩質の土壌です。
地質学の研究者である、広島大学名誉教授の於保幸正(おほゆきまさ)さんも
「この島は、島全体が花崗岩なんです」
と、雑誌の取材でお話されています。
「隆起しながら風化と侵食を繰り返し、そうしていまの姿になったんです」
と言われているので「花崗岩が隆起してできた島」というのは本当のようです。

引用:雑誌ひととき2023年11月号33ページ
また、広島大学瀬戸内CN(カーボンニュートラル)国際共同研究センター准教授、坪田博美(つぼたひろみ)さんは植物学の研究者ですが、この方も
「花崗岩が風化してできるのは、石英が主体の真砂土という土壌だ。この土壌は栄養分に乏しく、植物にとっては厳しい生育環境だと言われる」
とお話されています。これらの情報は雑誌ひとときの2023年11月号に掲載されています。

雑誌ひととき 2023年11月号
宮島は島全体が花崗岩なため、土壌の塩分濃度が高く、塩害に強い植物が多く自生しているめずらしい島です。
だからこそ、普通の島では目にすることのない貴重な植物が多く自生しており、それが自然豊で貴重な原生林だと言われる理由なのです。
宮島の山奥にも鹿の食べられる植物は残っていない

25年6月1日 鷹ノ巣山山頂付近で撮影
宮島の山奥なら、鹿の食べられる植物があるんじゃないの?
と思われる方もおられるでしょう。
ですが、山奥でもやはり土壌は変わりません。
それは広大名誉教授の於保先生がお話されている通り、島全体が花崗岩質だからです。

25年6月1日 鷹ノ巣山山頂付近で撮影
宮島でよく見かけるシダは、花崗岩質の土壌でも多く自生している植物です。
但し、鹿はシダ植物を好みません
繊維質が多く・アクが強いためです。
宮島の山にはとにかくシダ系の植物が多いです。

25年6月1日 鷹ノ巣山山頂付近で撮影
こちらは、シロダモの幼木(または若木)である可能性が高いです。雑草ではなく若木です。
写真では少し分かりずらいですが、この植物は葉が厚くて繊維質です。
鹿は若芽を食べることはあっても、成木や葉はほぼ食べられません。

25年6月1日 鷹ノ巣山山頂付近で撮影
宮島は一見すると緑豊かに見えますが、鹿が食べられる植物がほとんど残っていないのです。
次の写真は、宮島包ヶ浦自然公園です。

5月25日 包ヶ浦自然公園で撮影
この写真の植物は、 ヒルガオ科のツル植物、特に「グリーンカーテンなどにも使われる系統のヒルガオ属」や「エゾノサツマイモ」「アサガオ」などの可能性がある
このようなツル性植物は、多くが苦味成分や繊維質が多く含まれており、鹿が避ける傾向にあることが報告されています。
鹿が食べられない植物がある
ということを知っているかどうかで、宮島の鹿や給餌活動への印象が大きく変わります。
なぜ、鹿のための植物を“山に植えること”ができない?

25年6月1日 鷹ノ巣山山頂付近で撮影
宮島の鹿の給餌活動を発信していると、
鹿の食べられる苗を山に植えたらどうですか?
というご意見を頂きます。
確かに、それができれば問題解決できそうに思えますが、現実的には実行できない事情があります。
その理由は2つ
理由1:宮島で勝手に苗を植えることはできない

地面の葉は鹿が食べられないエゴマ / 6月22日撮影
宮島は、原生林も含めて世界文化遺産であり、動植物についてとても厳しい島です。
自然公園法と文化財保護法、廿日市市の条例において、以下の行為は原則禁止または許可制となっています。
- 植物の採取・伐採・植栽
- 動物の捕獲・飼育
- 土や石の採取
- 地面を掘る、地形を変える行為
2022年には、天然記念物の弥山原始林において、広島県が文化庁の許可を得ずに33本を根元から切り倒していたことが判明して、大きなニュースにもなりました。
宮島で鹿の食べられる植物を植えるためには、文化庁の許可が必要となります。
ですが、広島県や廿日市市が鹿の餌資源不足を認めていない現状では、許可を得ることは困難なのです。
理由2:苗を植えられても鹿がすぐに食べる

もし、国や広島県・廿日市市の許可が出て鹿の食べられる苗を植えられるとします。
ですが、そうなっても次に「鹿にすぐに食べられる」という問題が発生します。
常に空腹の鹿が400頭〜500頭暮らしている宮島では、鹿が食べられる植物はすぐに食べられてしまい、大きくなることができません。
苗を植えるのなら、鹿が入れない頑丈な柵をつくり、苗が大きくなるまで柵を維持し続ける必要があります。
しかも、長い時間をかけて植物を大きく育てても、その場所を解放したら鹿たちに数時間で食べ尽くされます
なので「鹿の食べられる苗を植える」というのは、宮島では現実的ではないのです。
ただ、過去には、宮島の鹿のために芝地の増設が検討されたこともあります。
宮島包ヶ浦自然公園の広大な芝地も、人間により作られた芝地なので、こちらは効果がありそうです。
ですが結局は、検討されただけで実行されませんでした。
鹿と植物、両方を苦しめている“本当の原因”とは?

廿日市市や植物の専門家は「宮島で鹿や猪による食害が起きている」と主張しています。
宮島の弥山で廿日市市の宮島中学校の3年生が、卒業記念植樹をしたという中国新聞の記事で、次のように記載されています。
広島県廿日市市宮島町の宮島中の3年生13人が13日、地元の弥山(535メートル)で卒業記念の植樹をした。シカやイノシシの食害が広がる山頂付近の林の回復や土砂災害の防止につなげる狙い。
引用:中国新聞記事
宮島の鹿は、戦後、人間が島外から連れてきて(奈良の可能性が高い)神鹿苑という囲いを作り飼育して増やしました。
宮島の鹿が「神鹿(しんろく)」だったことがわかる歴史年表まとめ
にも関わらず、その行為をなかったことのように私たちに見せ、現在は鹿による食害が広がっていると主張しているのです。
これが、何ともおかしい話だと感じます。
植物にとっても鹿にとっても、苦しめる原因を作ったのは人間なのに、あろうことか鹿を悪者扱いしているのです。
いやいや、鹿を連れてきた人間のせいでしょ
というのが私の想いですし、この事実を知ったほとんどの方が同じように感じるはずです。
まとめ

今の鹿と植物の双方にとって苦しい環境になった根本原因はどこにあるのでしょうか。
それは「鹿を観光利用したこと」なのではないでしょうか。
動物を観光利用して振り回した結果、宮島の植物と鹿の双方を苦しめる結果となってしまったのです。
そのことを反省せずに「上部だけ取り繕い、善人気取りの主張をしている」のが、今の専門家や行政であると言わざるを得ません
現状は、鹿の頭数と宮島の餌資源のバランスが崩れているのです。
行政は「給餌禁止のお願い」を徹底することで、自分たちの責任を放棄しつつ、裏では鹿を餓死させ減らし問題解決を図りたいという意図なのではと思ってしまいます。
もちろん、行政だけが悪者というわけではなく、私たちみんなで反省しみんなで問題解決に向けて協力する姿勢は必要です
行政には今すぐにでも、方向転換してもらいたいと願っています。
「給餌禁止のお願い」は継続しつづも、一部のボランティアの給餌活動を認め、サポートするところから始めるのはどうでしょうか。

宮島大元公園の看板
草木や岩石などは、すべてこの宮島を美しくしているたいせつなものです。
そして、宮島の鹿の命も自然の一部であり尊い存在です。
これまで人間が行った間違いを認めず、再び人間都合で鹿を苦しめ餓死させる行為を、私たちは見過ごして良いのでしょうか。
私たちはそれでは良くないと思っているからこそ、宮島の鹿さんの給餌活動を行なっているのです。