「宮島の鹿は野生だから、山で生きていけるはず」
そう思われる方も多いかもしれません。
けれど、公開されている資料を読んでいくと、もう少し丁寧に考えたほうがよいのでは、と思う点が見えてきました。
今回は、広島県や廿日市市の資料をもとに、宮島で生きている鹿たちが、山にある食べものだけで本当に暮らしていけるのか ということを、できるだけ分かりやすく整理してみます。
しかこそう、そこが一番知りたいとこよね
宮島の鹿は約600頭と推定されている


廿日市市の資料では、宮島北東部の市街地区域全体とその背後の森林に生息する鹿について、約600頭になると推定される と平成20年(2008年)に公開された資料に記されています。
これは、宮島の鹿の現状について、行政が把握している基本的な数字です。



ぼくの仲間は600頭いるんだね
つまり、「いま宮島にどれくらい鹿がいるのか、分からないまま方針を立てている」という話ではなく、行政は現在の頭数をおおよそ把握したうえで施策を進めている、ということになります。
宮島の鹿の頭数把握の方法


宮島の鹿の頭数は、すべての個体をマイクロチップで管理して把握しているわけではありません。
廿日市市の資料を見ると、全体の頭数把握は、主に現地での目視観察や確認個体数のモニタリングによって行われています。
一方で、繁殖率などを調べるための一部個体の識別には、夏毛の斑紋やマイクロチップが使われています。
つまり、マイクロチップは宮島の鹿全体を一頭ずつ管理するためというより、特定の個体を継続して追跡するために使われているようです。


廿日市市の資料では、マイクロチップは大人の鹿だけでなく、子鹿にも挿入していると書かれています



人間がマイクロチップを
俺たちの体内に入れた・・
参考資料:廿日市市「令和4年度 宮島地域シカ保護管理対策 現地調査結果報告書」
資料には「環境収容力を超えている」と書かれている


ここで重要なのは、行政資料の中に、
現状でも宮島のシカの生息個体数は自然の環境収容力を超えている
という趣旨の記述があることです。
さらに、令和4年度(2022年)の調査報告書でも、
現在の個体数は自然の環境収容力を大きく超えている、これ以上増えれば植生や生態系に危機的な状況を招く可能性が高い
と記されています。
つまり行政は、単に「鹿が600頭います」と言っているだけではありません。
その頭数は、自然環境が無理なく支えられる範囲を超えているという認識も、あわせて示しているのです。



公式資料にそんなことが記載されているの!?
この「約600頭」は、宮島全島の厳密な総数というより、大元公園から包ヶ浦までの市街地周辺とその背後の森林を対象にした推定値です。


そのため、市街地付近への集中が強く意識された数字ではあります。
行政は「野生に返す」「山へ帰す」という方針を示していますよね。



ぼくたちも山で暮らしたいけど・・・
そのため、一般の方には、「市街地に集まるのではなく、山に散らばれば問題は解決する」と受け取られやすい面があるかもしれません。


しかし、公式資料を読むと、
宮島のシカは「島全域で一つの地域個体群を形成する」と定義された上で、「環境収容力を超えている」「餌資源の把握は課題」と書かれており、単純に“山に散れば大丈夫”と整理されているわけではないようです
ここは勘違いしやすい部分なので、とても重要です。



この部分、勘違いしている人けっこう多そうね
さらに詳しく
計画本体では、宮島のシカは「島全域で一つの地域個体群を形成する」と整理されています。
一方で、保護管理の対象は北東部の市街地周辺に置かれており、令和4年度報告書でも、北東部の高密度な状況をもとに「自然の環境収容力を大きく超えている」「過剰に飽和した個体群」といった表現が使われています。
つまり市の資料は、単に「鹿が山に散らばればそれで解決」とは整理しておらず、北東部の集中だけでなく、個体群の密度そのものを問題として見ているようです。
参考資料:
廿日市市「宮島地域シカ保護管理計画:資料編 宮島のシカの生息状況」
廿日市市「令和4年度 宮島地域シカ保護管理対策 現地調査結果報告書」
宮島の鹿は山の植物だけで十分に生きていける?


ここで、多くの方が気になるのは、次の点だと思います。
現在の約600頭の鹿たちは、宮島に自生している植物だけで十分に暮らしていけるのか
もし、本当に十分な餌資源が宮島の山にあるのであれば、「鹿は野生だから山で生きていける」という説明にも、ある程度の裏付けがあることになります。



宮島の植物だけで
暮らしていけるなら
それが一番よね
そこで、広島県・廿日市市の公開資料の中に、現在の宮島の鹿が、山の植物だけで十分に生きていけるとはっきり書かれた箇所があるかを確認してみました。
宮島の植物だけで生きられると明記した文章は確認できない


今回確認した範囲では、行政の公開資料の中に、現在の約600頭の鹿が、宮島の自生植物だけで十分に生きていけると明記した文章は見当たりませんでした。
もちろん、資料には
- 鹿が森林の中でさまざまな植物を食べていること
- 山の中で過ごしていること
- もともと森林の植物を利用してきたこと
などは書かれています。
けれども、それらはあくまで
「鹿が山の植物を食べている」
という説明であって、
「現在の頭数を十分に支えられるだけの餌資源がある」
という説明ではありません。
この違いは、とても大きいと思います。



山には、ぼくたちの食べ物は少ないよ
参考資料: 廿日市市「宮島地域シカ保護管理計画(第2期 改訂版)」
宮島の餌資源については「今後の課題」とされている


注目すべきことがあります。
廿日市市の保護管理計画の中に、宮島の鹿について、高密度化による長期間の餌資源の制限状態に起因すると考えられるという趣旨の記述があることです。
言葉が難しいですが、分かりやすく言い換えると、
鹿が多すぎる状態が長く続いたことで、食べものが足りにくくなっていると考えられる
ということです。
また、同じ計画書には、
シカの餌となる植物の分布状況や潜在的な資源量を把握し、環境収容力(適正個体数)を推定することが課題である
とも書かれています。
ここから見えてくるのは、行政自身も、宮島の山にどれだけの餌資源があり、現在の鹿の頭数をどこまで支えられるのかについて、十分に整理しきれているとは言いがたいということです。



把握していないということは、
詳しく調べていないのかなぁ
少なくとも、公開資料を確認する限り、「現在の600頭を山の植生だけで十分に支えられることが確認されている」
という状態ではない、ということが見えてきました。
参考資料: 廿日市市「宮島地域シカ保護管理計画(第2期 改訂版)」


行政の方針は「野生に返すための給餌禁止」だけ


広島県の公開ページでは、廿日市市がシカを山に帰すために、餌やりの禁止とゴミ管理の徹底による個体数管理を対策の柱としていると説明されています。
参考資料: 広島県「宮島地域のシカについて」
つまり現在の行政の方針は、
鹿を野生動物として位置付け、給餌をやめることで自然に返していく
というものです。
ここで気になるのは、
先ほど見た
- 環境収容力を超えている
- 餌資源の制限状態
という認識との関係です。
もし、現在の個体数600頭が、すでに自然環境で支えられる範囲を超えていて、餌資源の制限が示唆されているのであれば、その状況の中で “給餌禁止だけ” を進めることが、実際にはどういう意味を持つのでしょうか。



宮島の山の植物だけで生きていけることが確認できていないのに、給餌禁止だけっておかしくない?
この点は、もっと慎重に考えられてよいのではと思えます。
「餓死が確認されている」とは書かれていない


では、実際に宮島において、鹿の餓死が確認されているのでしょうか。
この点についても、公開資料を確認してみました。
廿日市市の計画には、
餌やりの禁止によってシカが餓死しているという事実は一切確認されていない
と記されています。
また、
栄養状態は良好であるとはいえないが、危機的な状態ではないと考えるのが妥当
とも書かれています。
そのため、公開資料だけをもって、
「宮島の鹿が今すぐ大量に飢え死にしている」
と断定することはできません。



給餌禁止のお願いが始まった年は、たくさんの鹿さんが衰弱していたって記事を読んだけど・・・
ただその一方で、
現在の鹿たちに対して、山の中に十分な餌資源がある
と明確に示した資料も見当たらないのです。


参考資料: 廿日市市「宮島地域シカ保護管理計画(第2期 改訂版)」
給餌活動は、鹿の命をどの程度支えている?


山の中に鹿たちの十分な餌資源がある、と明確に示した資料が見当たらなかったことは、とても重要です。
広島県や廿日市市、そして広島大学の公式資料には、給餌が鹿にもたらす短期的な栄養状態の改善や、繁殖率の上昇に触れた記述が見られます。
しかしそれらは、鹿の命を支える前向きな効果として紹介されているのではありません。
多くの場合、個体数の増加や植生への負荷、生態系への影響につながる問題として扱われています。
給餌活動によって、宮島の鹿に届けられている餌が、
現在の宮島の鹿の生存や飢餓の回避に、どの程度寄与しているのか
という点については、
公式資料を見た限りでは、はっきり数字で示したものは見つかりませんでした。


つまり公開資料から見えてくるのは、
「餓死しているとまでは書かれていない」一方で、
「十分な餌がある」とも言い切られておらず、
さらに「給餌が、鹿の命をどの程度支えているのか」も、確認されていないのです。



市民による給餌活動が長年続けられているのに、その効果などは考えてもらえていないのね



僕たちは助かっているよ
参考資料:
廿日市市「宮島地域シカ保護管理計画(第2期 改訂版)」
広島大学デジタル博物館「宮島のシカ」
公開資料を並べると見えてくる構図


これまでの内容をまとめると、次のようになります。
- 廿日市市は、宮島の鹿を約600頭と推定している
- その一方で、その個体群は自然の環境収容力を超えているとしている
- さらに、餌資源の制限状態をうかがわせる記述もある
- 現在の600頭が山の植物だけで十分に生きていけると明記した資料は確認できない
- それでも政策としては、野生に返すための給餌禁止だけが進められている
こうして並べてみると、少なくとも公開資料の上では、「十分な餌資源が確認されているから、給餌禁止にしている」とは読み取りにくいように思います。



食べ物が十分にないと鹿さん生きていけないよ
むしろ、
餌資源に余裕があることが示されていない中で、給餌禁止による野生復帰が進められている
という構図が見えてきます。



なんで給餌禁止だけなの?


おわりに


宮島の鹿のことを考えるとき、
鹿は野生だから、山で生きられるはず
という一言だけでは、どうしても見落としてしまう部分があります。
行政の資料には、
- 現在の頭数が把握されている
- 環境収容力を超えているという認識がある
- 餌資源の制限をうかがわせる記述がある
その一方で、
現在の鹿たち600頭が、山の植物だけで十分に支えられている、という明確な説明は見当たりませんでした
この点は、いま宮島で起きていることをできるだけ正確に理解するうえで、重要な部分だと思います。


宮島の鹿の餌のことは、「自然があるから大丈夫」の一言で済ませてよい話ではないのかもしれません。
私たちは、印象やイメージではなく、公開されている事実をひとつずつ確かめながら、これからも鹿たちにとって本当に必要なことを見極め、行動していきたいと考えています。
参考資料
廿日市市「宮島地域シカ保護管理計画(第2期 改訂版)」
廿日市市「宮島地域シカ保護管理計画:資料編 宮島のシカの生息状況」
廿日市市「令和4年度 宮島地域シカ保護管理対策 現地調査結果報告書」
広島県「宮島地域のシカについて」広島大学デジタル博物館「宮島のシカ」


