宮島の鹿のために芝地の増設の方針を打ち出していた廿日市市

宮島では過去、鹿のために芝地の増設が検討されていました。

’09/6/23 の中国新聞には「島南部の藤ヶ浦も候補地として検討」と記載されています。

これは、2009年に策定された宮島地域シカ保護管理計画において、芝地の増設を検討していた廿日市市が、その候補地として藤ヶ浦を挙げていた証拠です。

これは、とても重要な記事です。

この一文から、行政は「宮島の鹿のエサ資源不足を認識していた」と考えられるからです。

目次

鹿のために芝地の増設を検討していた

まずは、こちらの新聞記事をご覧ください。

中国新聞(’09/6/23 )

宮島シカ、生息地を分散化へ

 廿日市市は22日、宮島町に生息するシカについて、頭数管理の具体策をまとめた「宮島地域シカ保護管理計画」を策定した。本年度は衰弱したシカの保護や、市街地に集中しているシカの分散化に取り組む。

 2013年度までの5年計画で、桟橋や厳島神社、紅葉谷公園などの市街地のシカを、現在の半数となる約100頭に減らす目標に向けて策定した

 具体的には、ビニールなど異物を食べて衰弱したシカの保護に取り組む。収容場所として島東部の入浜にある市有地を選定。秋にも柵で囲った約5千平方メートルの樹木を伐採し、野生に近い状態で保護する。保護基準や手順づくりも進める考え。

 生息地の分散に向けて、餌場となる芝草地についても検証する。包ヶ浦では肥料をやって草の生育を促す一方、芝の生育量とシカの食べる量との関係も調べる。島南部の藤ヶ浦も候補地として検討。シカの死因も調べ、胃の内容物などのデータも集める。

 観光客向けにも餌やりの禁止や、ごみの管理の徹底を呼び掛ける。桟橋前のごみ箱は、地下にごみを落とすシュータータイプへの変更を検討する。観光客にシカの現状を説明する看板も新設する。

この中国新聞の記事の中に

島南部の藤ヶ浦も候補地として検討

という記載があります。

この候補地というのは、芝地を増設する候補地です。

具体的に島南部の藤ヶ浦という芝地増設の候補地が決まっていた、ということは

「宮島の山に鹿の餌が豊富にある」という現在の廿日市市の主張と矛盾

することになります。

山に鹿の餌が豊富にあるのなら

市街地での餌やりを禁止したからと言って、芝地の増設を検討する必要はないはずです

鹿たちを山に誘導すれば良いだけ、だからですね。

ですが、2008年から「給餌禁止のお願い」だけを行なっていたため、2009年にかけて宮島の市街地で痩せ細った鹿が数多く目撃されるようになりました

その後、2008年末の朝日新聞への投書がきっかけとなり、給餌ボランティアが始まりました。

2008年末に朝日新聞に投書された痩せ細った宮島の鹿

芝地の増設が検討された背景

大元公園:地面の緑は苔なので鹿は食べられない

当初、芝地の増設が検討された背景には、一体何があったのでしょうか。

2009年に策定された初期の宮島地域シカ保護管理計画では、鹿の餌不足が深刻化した場合の対策として、以下のような方針が示されました。

餓死しそうな鹿が出て来た場合は、鹿への限定的な餌やりや芝地の増設を検討する

と記載されていたのです。

出典:山崎好裕(2023)『行政による専門家利用を考える―宮島鹿保護管理計画を事例に』p.4

  • 鹿への限定的な餌やり
  • 芝地の増設

当時、このような方針を行政が示したことで、宮島住民や鹿に関わるボランティアさんたちは安堵したことでしょう。

行政は、きちんと宮島の鹿のエサ資源不足を認識しており、その対策を方針として打ち出していたのです。

芝地増設の方針の変化と現在の対応

ですが結局、限定的な給餌も、芝地の増設も行われませんでした。

宮島地域シカ保護管理計画が改定されるごとに記述がなくなり、限定的な餌やりと、芝地の増設という計画は形骸化しました。

また、当時の行政は

鹿は人間の影響が強く反映されており、完全な野生動物とは言えない

という方針を示していましたが、

徐々に

鹿は野生動物である

という定義に変化させて行きました。

​そして、現在の宮島地域シカ保護管理計画では

鹿を野生動物として適切に管理し、人為的な餌やりや芝地の造成を行わない方針

とされています。​

これは、鹿の自然な生態を尊重し、過度な人間の介入を避けることで、持続可能な共存を目指すため。

なんだそうです。

5月11日撮影:葉っぱは鹿が食べられない舞鶴天南星(マイズルテンナンショウ)

ですが、春でも夏でも雑草が生えず、葛の葉も生えず、竹や笹も生えないのが宮島の土壌です。

塩分濃度が高く、花崗岩質の痩せた土壌であることは、地質学の専門家も雑誌で明言されています

この現状は全く変わらないのに、芝地を増設することもなく、エサ資源の少ない宮島の山に鹿を返すという方針を取っています

当初の約束を守らず、給餌禁止の啓発活動だけを行うことにより、ボランティアによる給餌活動を間接的に批判する風潮を作り出しています。

そして、何よりひどいと感じるのは

表面上は正しいことをしているように見せつつ、実際は「鹿を餓死させて頭数調整する」方針を取っていることです。

芝地の増設についてのまとめ

2009年の新聞記事を確認すると

宮島の山に鹿の食べられる植物が僅かであることを、宮島地域シカ保護管理計画を策定した廿日市市やそれに関わった専門家は認識していたということが分かります。

宮島の鹿のエサ資源不足です。

ですが、長い時間をかけることで、宮島の鹿に対する人々の認識を変化させ

宮島の鹿に餌を全く与えないことが「正しいこと」のように、一般市民に刷り込む方針を取ってきた

ということが分かります。

その間の16年間ずっと、全国の支援者と給餌ボランティアが鹿の命を守ってきたのです。

そして、それは今も続いています。

宮島の鹿は実際に餓死しそうなの?

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