宮島の鹿の動画で、痩せ細った鹿やゴミを食べる鹿の映像をご覧になられたことがあるかと思います。
そこで賛否が起こるのは「宮島の鹿は実際に餓死しそうなのか」という疑問です。
私は毎週宮島に通い、宮島の鹿に給餌をしているボランティアです。この活動はもう4年目になりますので、宮島の鹿を数多く見てきました。
宮島の鹿が餓死しそうなのか?についてお答えすると
今はボランティアによる給餌が行われているので、基本的には餓死する心配はありません
というのが答えとなります。
ただし、例外もありますので、この記事で実情を詳しくお伝えします。
宮島には餓死しそうな鹿が実際にいるのか
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宮島の鹿の中には(おそらく病気で)、極度に痩せている鹿がいます。
冬なのに毛が薄い鹿もいます。
また、弱い個体だと餌にありつけずに痩せ細っている可能性もあるでしょうし、年齢を重ね寿命が近づいている鹿もいます。
とはいえ、
給餌活動が続けられている限りは、鹿の餓死はだいぶ免れているのが現状です
餓死しそうな鹿がたくさんいたのは、廿日市市から「鹿への給餌禁止のお願い」が正式に出された2008年6月以降です。
議事録からわかる鹿の飢え
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この鹿は肋骨が見えています
(撮影:宮島包ヶ浦)
「鹿への給餌禁止のお願い」が出されてから約10ヶ月後に、衆議院にて行われた質疑応答の議事録を読むと、当時のことがよくわかります。
世界遺産宮島の鹿の管理に関する質問主意書(2009/4/28)
世界遺産宮島で鹿の頭数が増え過ぎたからという理由で廿日市市の給餌禁止措置による頭数調整が行われていることにより、市街地の鹿たちが飢餓状態に置かれている。鹿は食糧の不足にあえぎ、餓死せざるを得ないほどの窮地に立たされている。観光客が買い与えていた「鹿せんべい」の販売も中止され、飢えた鹿たちは、観光客に強引に食べ物をねだり、弱った鹿は力なくうずくまってしまっている。
当時を知るボランティアも、実際に鹿が飢えて痩せ細り、うずくまっている鹿を目にしています。
だからこそ、切実な文章が新聞に投書され、その記事を読み心を痛めた人たちがボランティアで鹿に給餌し始めたのです。
市街地の鹿はお腹が膨れている?
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市街地では、お腹が膨れている鹿を見かけることがあります。
この鹿を見て「丸々太っているのだから餌不足なんてありえない」と言われることがありますが、これにも訳があります。
実は、市街地の鹿のお腹が膨れているのは、ゴミの影響が大きいと考えられます
市街地の鹿は、紙類やビニール、プラスチックゴミなどもを食べてしまうことがあり、それらがお腹の中で消化できずに溜まっていくのです。
ゴミだけでなく、ブルーシートやかなたわしを食べてしまう衝撃的な映像も記録されています。
実際に、奈良では亡くなった鹿を獣医師が解剖してみたところ、一頭で3kgものゴミが出てきた事例があります。
奈良の鹿のおよそ3頭に2頭は、胃の中にプラスチックごみが入っています。プラスチックごみの量は、数百グラム程度から3キロ以上まで様々です。
宮島でも、毎日観光客がいたるところで買い食いをしているので、市街地の滞在時間が長い鹿はそれだけゴミを食べてしまうリスクが高まります。
しかも、常にお腹を空かせているので、食べ物の匂いがついた袋などを平気で口にしてしまいます。
鹿は人に餌をねだるので、観光客が手に持っているゴミを意図せず口にしてしまうのです
そのため、市街地のお腹が膨れている鹿に関しては、雌鹿(めすじか)なら赤ちゃんがいる場合もありますが、ゴミが溜まっていることの方が多いと考えられます。
宮島は97%が森なのになぜ食糧難なのか
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宮島は島全体が花崗岩でできており、土壌の塩分濃度が高いのが特徴です。そのため、塩害に強い植物が多く自生しています。
一見すると原生林があり緑豊かな島ですが、実は地面には春でも夏でも雑草が見当たりません。
その代わりに、
- シダ
- 梻(シキミ)
- 榊(サカキ)
- 馬酔木(アセビ)
- エゴマ
などの、鹿が食べられない毒性のある植物が多く自生しています。
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廿日市市に問い合わせると「山奥には鹿が食べられる植物が豊富にある」と返答されますが、本当にそうなのでしょうか。
衆議院での質疑の中にも、山に餌がないことについての記録が残されてます。
市街地で給餌を禁止し、市街地の鹿を山へ追い込もうという考え方に対し、「山の植物は鹿の被害で再生不可能な状況にある」という意見もある。山には鹿が食べてよい植物はなく、例え山に移動したとしても、山に棲むことさえ許されなくなる日が、必ずやってくることは明白である。
このように「山に鹿が食べて良い植物がない」と発言されています。
これまで多くの人が、山に餌がないと意見しているにも関わらず、廿日市市は「山奥に鹿の餌がある」と主張し続けています。
もしも山に鹿が生きていくのに十分な植物があると言うのなら、しっかりとした根拠を、誰もがわかる形で公開してもらいたいです
食べられる植物を写真や映像で撮影したり、餌場の情報を公開するなどですね。
また、鹿の餌となる植物が山奥に豊富にあるなら、その場所に鹿たちを誘導する必要があるのではないでしょうか。
餌を与えると鹿が増えて苦しませることになりませんか?
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「餌を与えると鹿が増えて苦しませることになりませんか?」
という質問をたまに頂くことがあります。
ボランティアの給餌活動だけに着目すると、そのように感じるのは仕方がないことかもしれません。
ですが、実際には、鹿の頭数は16年間増えていません。
宮島の鹿は給餌している16年間増えていない
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16年間給餌ボランティアをされている米田さんは、給餌の際に、餌を食べに来る鹿の頭数を記録しています。
その記録によれば、鹿の数はむしろ減っています。
当初は340~340頭ほど出てきていた鹿が、現在は300頭を切るくらいです
ということは、適正な量の餌を与えるのであれば、増えすぎて苦しむ鹿を増やすということはない、ということになります。
鹿が増えるのを心配する人が多いのは、近年の報道による影響が大きいと感じます。
「鹿は繁殖力が強い」
「鹿が増えている」
といった報道を、いたるところで見聞きします。
ですが実際には、鹿は一度に生む子供は一頭だけで、年に一回しか子供を産みません。母鹿は栄養を子鹿にたくさん与えるため、より多くの栄養が必要となり餌の確保もより大変となります。
ですので、そもそも餌となる植物の少ない宮島では特に
うさぎや猫のように繁殖力が強いとは言えないのです
また、宮島の鹿は奈良の鹿に比べて、体の大きさが2/3程度しかありません。
これは、野生動物は環境に適応する能力があるため、餌の少ない宮島では体を小さくして生き延びようと、独自に進化したと考えられます。
給餌を辞めた場合に起こること
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山には鹿が生きていくだけの十分な餌がないため、鹿たちは餌を求めて市街地に降りてきます。
市街地では観光客が常に買い食いをしていて、飲食店やもみじ饅頭屋などが多いため、お腹を空かせた鹿が匂いにつられてやってきます。
食べ物の匂いはするのに「給餌禁止のお願い」があるので、鹿たちは空腹に痺れを切らし、人間に対して攻撃的になる可能性があります。
答弁でも、そのことが懸念されています。
【質問】
餌をもらえず飢えた鹿が凶暴にならないようにするためには、鹿の餌場となる芝草地を市街地に設けることも一つの方策と考えるが、見解は如何。
【回答】
ガイドラインにおいては、人為的な給餌に替わる措置として、シカの餌場となる芝草地の造成を検討するが、当該造成はシカの個体数の増加や他地域からの誘引を招く可能性があることから、シカの分布状況等様々な観点から調査研究を行うとされている。
ガイドラインというのは、2008年6月に策定された「宮島シカ保護管理計画」のことです。
このように鹿が市街地で凶暴になることが懸念されているのですが、これに対して「シカの餌場となる芝草地の造成を検討する」という返答がなされています。
つまり、
- 宮島の山には鹿の餌が十分でない
- 空腹の鹿が市街地で凶暴化する可能性がある
- 市街地での芝草地の造成を検討する
という構図が成り立つのです。
結局、ガイドラインに記載されていた芝地は造成は形骸化してしまい、実行されませんでした。
その代わり、ボランティアが給餌活動を継続しているので、鹿は市街地で凶暴化せずに済んでいるということです。
もしこの給餌をやめてしまったら
- 鹿は空腹で地獄の苦しみの末餓死
- 市街地では凶暴化した鹿に人が襲われる
- 宮島の評判が落ちる
- 商売にも悪影響がでる
と、誰にとっても良いことがありません。
たまに「宮島の鹿への餌やりは違法行為だ」と言われることもありますが、こちらも間違いです。
これについて廿日市市から正式な回答をもらっていますので、詳しくは以下の記事をご確認ください。
まとめ
宮島の鹿の現状は、餌不足により餓死しそうな鹿はあまり見当たりません。
それは、16年間も継続的に給餌活動をボランティアが行なっていて、全国の支援者様に鹿の餌を自費で支援してもらっているからこそ実現できていることです。
この宮島鹿問題を、給餌ボランティアと支援者の善意で何とか食い止めているのです
まずは、長年行なってきた鹿の観光利用がそもそも間違っていたことを認めて、きちんと目の前の鹿の命と向き合ってもらいたいです。
私たちは宮島の鹿を減らすことに反対しているわけではありません。
鹿を苦しめる減らし方を問題視しています。
そのため、給餌ボランティアは1日も早く、行政による適切な量の給餌の再開を望んでいるのです。