- 宮島の鹿への給餌は禁止なんでしょ?
- 宮島の鹿の情報は一体どれを信じれば良いの?
- 給餌禁止なのになぜ給餌活動ができるの?
宮島の鹿の給餌活動についてさまざまな疑問があるかと思います。
私は宮島の鹿の給餌活動を始めて4年目になりますが(米田さんは16年目)、その間に多くの批判的な意見をもらってきました。
中には脅しと言えるようなものまで。
ですが、自分の目と耳で確かめたことを根拠なく批判されることも多く、なぜそれほど批判する人がいるのだろうと驚くことが多いです。
この記事では、宮島の鹿への給餌活動の歴史的背景をお伝えしながら、今も宮島で起きている問題の本質をお伝えします。
最後まで読むことで、宮島の鹿問題を深く知ることができるはずです。
宮島の正式名称は「厳島(いつくしま)」ですが、馴染み深い「宮島」で統一させていただきます
宮島の鹿と人との共存
宮島では、古くから「鹿は神の使いである」として大切にされ、観光に利用されてきました。
人々は鹿に餌を与えながら、長い間共に暮らしてきたのです。
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写真:安芸宮島松原ト神鹿
昔は鹿が家に入るのを防ぐための「鹿戸(しかど)」と、家庭で出た残飯(野菜の皮など)を鹿に与えるための「鹿桶(しかおけ)」が家の前に設置されていました。
これらは、鹿と住民が共に生きるための先人の知恵です。
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しかし、2008年に状況が変わりました。
行政が「鹿は野生動物である」と主張し始めて、山に十分な餌があるものとして「給餌禁止のお願い」を出したのです。
同じ頃に、それまで観光客に販売されていた「鹿せんべい」も廃止されました
給餌禁止のお願いが出されてから、宮島では痩せ細り困窮している鹿が目立つようになります。
その姿を見かねた方が新聞に投書し、記事を読んで心を痛めた人たちが、ボランティアで鹿への給餌活動を始めたのです。
宮島の鹿への給餌は違法?
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宮島には上記の写真にあるような看板がいくつも設置されています。
一見すると餌やりが違法のように見えますが、「給餌禁止のお願い」というのはあくまでもお願いです。
条例ではないので、宮島の鹿への餌やりは違法ではなく、罰則もありません。
そしてさらに重要なことは、行政が給餌を行なっているわけではありません。
この看板を見た多くの方が「行政が適切な餌やりをしているんだな」と勘違いするそうです。
ボランティアは16年以上給餌活動を行ってきましたが、私たちも行政による鹿への適切な給餌再開の「お願い」をしています。
2022年の改正自然公園法により「宮島の鹿への給餌活動が違法になった」と言われることもありますが、こちらも違法ではありません。それについては以下の記事で解説しています。
給餌禁止のお願いって何?
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違法という言葉は、法律に違反した際に使われる言葉ですが、行政からのお願いは法律(条例)で定められているわけではないので、違法という言葉を使うこと自体が間違えです。
「給餌禁止のお願い」というのは、例えるなら「マスク着用のお願い」のような感じだと思ってください。マスクをするしないは個人の自由ですので捕まることはないですよね
米田さんを筆頭に、これまで多くの方が給餌活動に関わってきましたが、16年間の鹿への給餌活動で捕まった人はひとりもいません。
なぜなら、宮島の鹿への給餌は違法行為ではないからです。
誤った情報を拡散することで、その人の信用がなくなることがあるかと思います。宮島の鹿への給餌が違法行為だと思い込んでいる方へは、本当のことを教えてあげて欲しいと思います。
ただし餌やりは慎重に
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だからといって、宮島の鹿へみんなが給餌すれば良いというわけではありません。
鹿の頭数を減らしたい廿日市市や宮島住民の意向もありますので、そこは慎重になる必要があります。
現在は、鹿が少なくなってもインバウンド需要があり、宮島には多くの観光客が訪れるようになりましたので、鹿の数を少なくしたいようです。
餌を与えすぎることで、鹿が今よりも増える可能性はあります。そうなると昔から問題だった、市街地での鹿との摩擦が再び起こるようになります
皆が鹿の餌をもって宮島を訪れれば問題解決する、ということではないのが宮島の鹿問題の難しいところです。だからこそ、行政による適切な給餌が求められています。
長年の給餌活動の功績
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この長年(16年以上)の継続的な給餌活動によって、鹿が市街地から山側に移動しました。住民に感謝の言葉をかけてもらうこともあります。
行政は鹿への「餌やり禁止のお願い」により、市街地から鹿が山側へ移動したと伝えていますが、少なからずボランティアの給餌活動が良い影響を与えたことは言うまでもありません。
鹿を野生に戻すという表現は、鹿が山で暮らすことを意味していると思います。ですが、宮島の鹿は毎日夜になると山に帰っています。そして朝になると市街地に降りてきて餌を求めるのです。
山に鹿の餌がたくさんあるのなら「わざわざ餌のもらえない市街地に降りてくることはないのでは」と思わないでしょうか
鹿たちが山側に移動したのは、給餌ボランティアから餌を毎週もらえるようになったからです。
もちろん給餌禁止のお願いを出し、鹿せんべいを廃止したことにより、市街地で餌がもらえなくなったことも鹿が山側に移動した要因ですが、それだけでは鹿はここまで移動していないでしょう。
ボランティアが餌を配る場所は山側の広場です。そちらにいれば餌がもらえることを理解した鹿たちが、山側に移動したことは想像がつきます。つまり長年の給餌活動の功績がかなり大きいということです。
宮島の土地と鹿の現状
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宮島の山には鹿が食べられる植物がある、と主張される方がおられますが本当にそうなのでしょうか。
実は、これには多くの方が疑問を感じています。特に、実際に宮島を訪れて現地で確認した方は、鹿が食べられる植物が極端に少ないことを自分の目で確認しています。
各SNSで発信している鹿の映像でも、給餌の車を走って追いかける鹿の姿を多くの方にご覧頂いています。その映像を見ただけでも、鹿たちがお腹を空かせているというのが一目瞭然です。
もし、山に豊富に食べ物があるならば、給餌の車を必死に追いかけるなんてことはしないからです。
鹿が走るのは、かなりの危険を感じたときぐらいですから、給餌の車を見て「走る」というのはよっぽど差し迫った行動だと言えます。
宮島は特殊な土壌の島
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ではなぜ、宮島には鹿の食べられる植物が極端に少ないのでしょうか。
実は、宮島は大昔に花崗岩が隆起してできた特殊な島で、島全体が花崗岩でできています。この土壌によって、鹿が食べられる植物が極端に少ないのです。
研究者が見た宮島の土壌
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地質学の研究者である、広島大学名誉教授の於保幸正(おほゆきまさ)さんも
「この島は、島全体が花崗岩なんです」
と、雑誌の取材でお話されています。
「隆起しながら風化と侵食を繰り返し、そうしていまの姿になったんです」
と言われているので「花崗岩が隆起してできた島」というのはやはり本当でした。
また、広島大学瀬戸内CN 国際共同研究センター准教授、坪田博美(つぼたひろみ)さんは植物学の研究者ですが、この方も
この土壌は栄養分に乏しく、植物にとっては厳しい生育環境だと言われる」
「花崗岩が風化してできるのは、石英が主体の真砂土という土壌だ。とお話されています。
これらの情報は雑誌ひとときの2023年11月号に掲載されています。
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Amazon広告:ひととき 2023年11月号
権威ある研究者の方たちも、宮島の土壌が特殊なため植物が育ちにくいとお話しされています。
島全体が花崗岩でできているため、他の土地とは生きられる植物が異なるということです。
鹿が食べられない植物たち
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このように、宮島は花崗岩の特殊な島なため、土壌の塩分濃度が高く「塩害に強い植物」が多く自生しています。これら土壌に塩気が多くても生きられる植物を塩性植物と呼びます。
例えば宮島に多い植物をあげると
- シダ
- 梻(しきみ)
- 榊(さかき)
- 馬酔木(アセビ)
- エゴマ
などが主です。
これらの植物は鹿が食べられまぜん。宮島には一見すると緑がたくさんあるように見えますが、このあたりの知識があると、宮島で鹿が食べられる植物を見つけるのがかなり難しくなります。
ネットで調べてみても、鹿の食べられない植物は多く存在します。
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これらの植物も鹿が食べられない植物です。
緑色なので鹿が好みそうな見た目ですが、実際には毒が含まれているので食べることができません。こういった知識がなければ、宮島を訪れた際に鹿の餌が豊富にあるように見えても仕方がないことだと思えます。
他にも、宮島には「シバナ」というめずらしい植物がありますが、このシバナも塩性植物です。塩性というだけあって、シバナは塩分濃度が高い土壌で育つ植物なのです。
このように塩生植物が多いのが宮島の特徴です。それは島全体が花崗岩だからそうなるのです。
弥山が教えてくれる花崗岩
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宮島には弥山(みせん)という標高535mの山があります。この弥山の山頂には、巨大な岩盤がゴロゴロしていますがそれらも花崗岩です。
宮島ロープウェーの公式ページにも以下のように記載されています。
これらの岩は、弥山の主な地質である花崗岩が風化して生まれたもので、この奇岩怪石が形成する奇観が、山岳信仰の礎になっていると言われています。
弥山の頂上に花崗岩が多く残っているということは、宮島は花崗岩が隆起してできた島であることがよくわかります。
花崗岩というのは塩分を多く含む土壌ですので、塩性植物が主に自生することになります。その結果、鹿が食べられる植物が極端に少なく、鹿が生きていくには適さない島となったのです。
宮島の鹿への給餌活動の歴史
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昔の人々はこの環境を理解し、「鹿桶(しかおけ)」と呼ばれる容器を家の前に設置し、野菜や果物の皮を鹿に与えながら、鹿と共存してきました。
ところが、山に鹿の餌があるとして、2008年から「給餌禁止のお願い」を行政が出すようになりました。その背景にあるのが行政が打ち出した「宮島シカ保護管理計画」というものです。
宮島シカ保護管理計画
この「宮島シカ保護管理計画」の中には、鹿のために「芝地を増設する」という計画が記載されていました。他にも鹿が衰弱している場合は適切な給餌を行う、とも記載されていたのです。
ところが、何度か改定されるたびに芝地の増設については削除されました。
芝地を増設や給餌の検討が記載されていたということは、ガイドラインを策定した専門家たちも、宮島の山には鹿の餌が十分でないことを認めていたということになります。
ちなみにこのガイドラインを制定する専門家の中に、鹿の専門家はひとりもいませんでした。
宮島での給餌活動
宮島シカ保護管理計画が実行されてからしばらくして、宮島の市街地でガリガリの鹿を多く目にするようになり、それをみかねてボランティアが給餌を行うようになります。
これまで多くの方が給餌活動を行っていましたが、一方でそれを非難する住民もいました。残念ながら、このような批判はいまだに続いています。
行政が間違ったことを言うはずがない、と思い込んでいる方がまだまだ多くおられるのです
過去にはNPOが設立されたこともありましたが、さまざまな事情により活動を継続することができなくなりました。家庭の事情や精神的・経済的・時間的な負担から、給餌活動を辞める方も多かったのです。
そんな中、ずっと給餌活動を続けておられるのが米田ご夫妻です。また全国にこの活動を支えてくださる支援者様がおられます。彼らの並々ならぬ努力によって、鹿たちは今日も生きることが出来ているのです。
宮島の鹿を大切にできない背景
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本来なら、鹿を苦しめることなく避妊措置を行うであったり、本土の山に鹿を移動させるなどの措置が行われても不思議ではありません。
ですが、「餌の少ない宮島で野生で生きていけ」という兵糧攻めのような措置が行われているのが実態です。
それが鹿のためだという主張は、一見筋が通っているように見えますが、実際はまったく逆です。
野生動物をなぜか悪者に
ではなぜ、宮島の鹿を減らすにしても人道的な措置ができないのでしょうか。それはおそらく、今の世の中の鹿への認識を崩したくないからだと考えられます。
鹿や熊などの野生動物は人間にとっての「害獣」であり、駆除対象にして毎日多くの動物を殺しています。その活動を正当化するためのデータや研究が進められ、駆除した鹿を「ジビエ」として食べる習慣を国が取り入れようとしています。
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環境省資料及び間野(1998)をもとに作成.点線は農業被害が急増した1990年の狩猟者数レベルを示す
こちらの画像からわかるように、1990年頃から鹿の狩猟数が激増しています。
政府は狩猟を増やす政策を推し進めているので、宮島の鹿を大切に保護することは矛盾を生むのだと考えられます。また、本土の山に放したとしても、彼らが駆除対象にされてはたまったもんじゃありません。
自然の中での鹿たちの役割
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これから私たちは、野生動物を「害獣」扱いしている世の中の風潮を正していく必要があります。
多くの方が鹿や熊は悪者であると信じ込んでいる現状がありますが、実際はそんなことはありません。
鹿は芝や雑草を食べ、山に風を通す道をつくります。草や木の実などを食べて、糞をすることで遠くに運ぶのです。そのようにして鹿は生態系を豊かにする役割を担っています。
山を削り自然を破壊してきたのは私たち人間です。お金儲けのために針葉樹をたくさん植えたのにもかからず、海外の樹木を輸入するようになり日本の針葉樹はほったらかしとなっています。
特に針葉樹林の割合が多い九州では、その影響で熊が絶滅したと言われています。
これら行きすぎた行為の結果、山の生態系が崩れ、野生動物たちの食べ物が少なくなっているのです。それにもかかわらず、風力発電やメガソーラー設置などによりさらに開発を進めています。
環境問題に多くの方が取り組むようになったにも関わらず、実際の行動がかなり矛盾しているのです。本土の野生の鹿と、宮島の鹿は一見関係ないように思えますが、宮島のが大切にされない要因がここにあると考えられます。
私たちにできること
この問題を解決するためには、多くの方がこの現状について知り、周囲に広め、行政に声を届けることが必要です。個々人の理解を深めることがまずは第一優先となります。
また、この国は国民主権のもとで成り立っており、行政は市民のためにあるべきものです。大勢の声が集まれば、行政も動かざるを得ません。
この情報を共有していただき、一緒に行動を起こしていただければ幸いです。